── 関与ログ ──顧客ではなく、社内承認が最上位になっていた構造

この組織では、営業活動の前提として、顧客起点が掲げられていた。

顧客の課題を理解する。
顧客の意思決定に寄り添う。
顧客にとっての価値を考える。

思想としては、明確だった。

だが、実際の営業構造を辿ると、
行動の最上位には、別の基準が置かれていた。

社内で、承認されるかどうか。

営業の現場では、顧客より先に、社内の視線が立ち上がる。

・この提案は、説明できるか
・稟議で通るか
・上長に納得してもらえるか

顧客に向き合っているつもりでも、
最初に越えるべき壁は、顧客ではなく、社内になっていく。

当事者の認識は、こうだった。

営業は、まず社内を通さなければ、顧客に約束できないと思っている。
管理職は、リスク管理として当然だと考えている。
経営は、顧客視点で動いていると理解している。

誰も、顧客を軽視していたわけではない。

ただ、顧客の納得よりも先に、社内の合意を取るほうが、
合理的になる場面が増えていた。

その結果、営業の判断は少しずつ変わっていく。

・顧客にとって本質的だが、社内説明が難しい提案は後回し
・不確実だが価値のあるテーマは、無難な表現に薄められる
・顧客との対話より、社内向け資料の完成度が上がる

顧客は、話題の中心には残る。
だが、判断の中心からは外れていく。

この転換は、一度起きると、構造として固定化される。

社内承認を通した提案は、評価されやすい。
通った案件は、「うまくやった営業」として残る。
通らなかった挑戦は、「無謀だった試み」として消える。

こうして営業は、顧客よりも、社内に最適化された行動を選ぶようになる。

顧客起点という言葉は残る。

だが、運用の中で、その意味は変わっていく。

問題は、承認プロセスそのものではない。
確認も、管理も、必要な行為だ。

ただ、どの判断を顧客起点で引き取るのか。
その線引きがないまま、承認を通す行為だけが積み上がっていく。

結果として、顧客は思想上の主役であり続ける。

一方で、構造上は二番手に下がっていく。

営業は、顧客に向いているつもりで、
社内承認に最適化された判断を繰り返していた。