── 関与ログ ──部長を増やした瞬間、判断が空洞化した構造
この組織は、事業の拡大に合わせて、部長クラスのポジションを増やした。
管掌範囲を整理する。
意思決定を分散させる。
スピードを上げる。
狙いとしては、合理的だった。
体制が変わった直後から、会議の数は増えた。
報告も、以前より丁寧になった。
それでも、決まらない。
表面上は、判断者が増えたはずだった。
だが、実際には、判断の所在は、以前より見えなくなっていた。
当事者の認識は、こうだった。
新しく任命された部長は、自分の裁量範囲がどこまでなのか分からないと感じている。
既存の管理職は、これからは部長が決めるのだと思っている。
経営は、権限移譲はできていると理解している。
それぞれの認識は、自然だった。
だが、構造として見ると、ここで起きていたのは、権限移譲ではなかった。
判断の分散でもなかった。
判断の希薄化だった。
判断者が増えるほど、一つひとつの判断は軽くなる。
前提は共有され、意見は集められ、合意が求められる。
結果として、判断は「誰かが引き取るもの」から、
「場で整えるもの」へと性質を変えていく。
この構造では、部長は次の役割に最適化されていく。
・関係者の意見を集める
・衝突を避ける
・経営に説明できる形に整える
どれも、組織として必要な行為だ。
ただ、その中で決めるという行為だけが、宙に浮いていく。
やがて、こんな言葉が増えていく。
「部長会で決めよう」
「一度、持ち帰ろう」
「次回までに整理しよう」
判断は、常に次の場へと送られていく。
問題は、部長を増やしたことではない。
部長という役割に、どの判断を引き取らせるのか。
その設計が、最初から置かれていなかった。
結果として、判断は役割の隙間に落ちていく。
判断者はいる。
会議もある。
だが、判断だけが存在しない。
組織は整えられた。
その一方で、
決める力は、静かに薄まっていった。